オシムの思い出し日記。

先日、とある企業様にご訪問後、
降り立った駅とは別の駅へ向かおうとしたとき
ふと、そこが見覚えのある道であることに気がつきました。


少し考えてすぐ、そこが前職で営業をしていたときに
足繁く通った記憶のある場所であることがわかりました。


あの時と同じ店やビルの並びが
暗い夜の道や雨で湿った街の感じも、あのときの気持ちも
みるみるうちに思い出すことができました。
そこは確かに、何度も降り立って覚悟を決めた場所でした。



私が新卒で入社したのは、オフィスの不動産仲介事業を
主に行っている会社で、入社当初は配属も仲介営業職。


移転をしたい企業にオフィスビルの賃貸物件を紹介して
入居企業とビルオーナーが双方気に入れば
賃貸借契約の調整、契約締結までを仲介する仕事でした。


入社したてのころは、契約となれば先輩に力を借り
自分ひとりの力にまだ自信が持てずにいました。


そんな中、ついに一人でこなすべきひとつの案件を任されました。
その案件は、小さな中国の貿易会社が、
事務所が手狭になったので、近隣のすこし大きいビルに移転をしたい、
という依頼の案件でした。


小さな案件で、契約が決まっても決して大きな手柄とはいえませんでしたが
当時は初めて自分だけに任された案件だったので
ビルのオーナーのところにも企業の担当者にも、何度も訪問をしました。


わたしが降り立ったその道は
私が初めて先輩社員の手を借りずに
結果、自分ひとりで契約をすることが出来た
ビルオーナーとその貿易会社のいるビルがある場所だったのです。



朝の早い時間にも、夜の暗い中も
同じ道を何度も歩きました。


訪問する日はなぜかいつも雨で、オーナーにも企業担当の方にも
「岡村さんがくるといつも雨だね」
と言われた、そんな些細なことまで覚えています。


失敗もあったし苦労もしたけれど
初めてお金を貰うに値する仕事を自分で出来た、と実感できる
とてもいい経験になった1件でした。



そうこうとずいぶんと懐かしい気持ちに浸っていたら
ふいに無償にその企業さんとオーナーさんに会いたくなり、
「忘れられていてもいい」という覚悟のもと
思い切って訪問をしてみることにしました。


それでもそもそももう移転して居なかったりして…
と、少々緊張しながら見慣れたうす暗いエントランスをのぞくと
私が入居させた企業の名前が確かにありました。


ほっとした気持ちで相変わらずのろいエレベーターに乗り
まずは企業さんのこところへ。


当時の担当は社長の奥様だったのでいないはずはないのですが、
恐る恐る担当の名前を呼び出してみると
あのときとかわらぬ姿で
「岡村さん!ひさしぶり!」
と声を掛けてくれました。


そのまま応接に通してもらうときに
「実はね、ここ移転するの」
と、一言。


なんでも、この不況の中でかなり儲けているようで
別のいいビルを買ったのだそうで。
「このビルに来てから、業績が上がって…」
そうきいたときには、別に私のおかげでもないのに
心から嬉しく思いました。


移転を決めたとき、まず真っ先に前の会社に私宛に連絡をしたのだ、
と彼女は言いました。


「連絡したら、岡村さんもういないっていうから…」
転職するってゆったと思ったんだけどな。
それでも、営業マンとしては最高に嬉しい一言でした。



移転したらまた挨拶に行きます、と企業担当に別れを告げ、
今度は最上階のビルオーナーのオフィスへ。


すみません…と声を掛けると
数年前にも対応してくださった事務の方が出迎えてくださり、
向こうも覚えている様子。


オーナーは不在なんです…ときいて、残念でしたが
せっかく来たので手紙でも残して帰ろうと、少々応接にお邪魔すると
これまた以前よく対応してくださった女性の方が
「ひさしぶりじゃない〜!」
と声を掛けにきてくださいました。



入居させた企業さんの話になり
「このビルをとても気に入ってくださってね、
 オーナーとも仲良くしてたのよ。
 最近岡村さんこないなあと思ったら
 同じ会社の方から辞めたってきいて…」


転職するときあいさつに来たはずなんだけどな…


ともあれ、この案件はわたしにとってとても大きかったので
移転した後も訪問していたのですが
転職してからは一度も足を運べずにいて
心の隅でいつも少し気になっていました。


そんな中、オーナーさんと企業さんがその後もいい関係でいられて
円満移転(?)となったことは、私にとってはとても嬉しいことでした。



その再会を口切に、最近、社会人になりたてで
何につけても必死だったころの自分を思い出します。


会社の利益なんて具体的には考えていなかったし
日々新しいことばかりで、一日の時間が足りないと思うことばかりでした。


今思えば無駄なこともたくさんやりました。


あるときは、駐車場がないと決まらない案件で
その付近を日が暮れるまで走り回り
駐車場を見つけてはフェンスに取り付けてある管理会社の電話番号に
片っ端から掛けて回ったこともあります。


今は、時間の使い方も会社の利益に対する執着心も
あのころに比べたら持てるようになったように思いますが、
なりふり構わず一生懸命目的に向かう勢いみたいなものは
少し忘れかけているような気がしました。



入社当時繰り返し、自分の中で思っていたことを思い出します。


わたしはまだまだ未熟なのに、こんなに出来ていないのに
会社からお金を貰っている。
勉強させてもらってる上にお金ももらえているのだから
もっと頑張らなくちゃ。


働いた対価としてお金を貰っている。
当たり前だけど、本当に働いて利益になった分を
お金で換算したら、いったいどれだけの人が
トントンかそれ以上に働いているといえるのだろうか?


わたしは今月、わたしはお給料分稼いだ!
とせめて毎月言えるように、もっと必死にならなきゃ、と
今回初心を思い出し、そう思いました。


また、一生懸命動いた形跡は、未来の自分をも動かすのだな、
と改めて気づき、今一生懸命頑張って、そのの頑張りをまた、
未来の自分の糧にしたいなと思ったのでした…