「シャンプーよかったですよ」っていう素晴らしさについて。 *オシム*

先日行きつけの美容院へ行って、髪を切りました。
私は、今までクーポンで安いところに行っていたのだけれど、
最近はずっとそこにいっており、
気づいたら10回以上通っていたため、
今回より『プレミアム会員』となりました。


なぜ最近はずっとそこに行っているのかというと、
単純に担当者の美容師さんの腕がよいからです。


その美容院は原宿の、いわゆるウラハラ的なところに位置し、
洋館のようなたたずまいをしています。


そして中にいる美容師たちは、そろって動物のよう。


キリンがいたり、バニーガールがいたり、
半身タイツ、スネ夫…(!?)




要は、美容師のキャラ作りそのものを売りにしている美容院なのです。
がちゃがちゃ騒がしく、通りすがりの美容師まで絡んでくる始末。


人によっては合わないかも知れませんが、
慣れてしまえばテーマパークな美容院でございます。




さて、そんな美容院での出来事。


朝から髪を切りに来た私。
さほど待つことなくシャンプー台へ導かれる。


「倒しますねー」
シャンプー台を倒しつつ、髪にお湯がかかり始めた。




余談ですが、シャンプー台での体の向きは、
美容院では、仰向け、床屋ではうつ伏せ(というか顔下向き)なのですってね。


男性で美容院に行かれたことがない方は不思議かも知れませんが、
美容室ではシャンプーをするとき、いつも顔の上に
「リードクッキングペーパー」の薄紙みたいなのが敷かれるのです。


今私が通っている美容院では、おでこのところで、
なにかをノリ代わりにして落ちない努力をしてくれているのですが、
数年前までは、どこの美容院でもその薄紙が落ちそうになり、
わたしはいつも、それが落ちないよう顔の筋肉でこらえていました。


だからきっとどんな美人も、
「お湯加減いかがですかぁ?」
と聞かれているときには、
「はい〜」
と応えつつ薄紙のしたで般若顔だろうな…といまでも思っています。




それはさておき、私のシャンプーが始まりました。
美容院によっては、シャンプーからカット・ブロー・セットまで、
すべて担当の美容師さんが行ってくださることもあるかと思いますが、
腕のいい美容師さんは、髪を切るのに忙しいので、
シャンプーや床掃除、ドライヤーかけは、下っぱの人が担当するのが一般的。


つまり私のシャンプーは、おそらくまだ髪を切らせてもらっていない
新人さんだったと思います。




ちなみにわたしはシャンプーのとき、あまり文句は言わない性質です。


例えば、お湯が熱くても
「お湯加減どうですか?」
といわれれば
「大丈夫です」


力加減が強くても
「力加減どうですか?」
といわれれば
「大丈夫です」


すすぎ足りなさを感じても
「すすぎ足りないことございますか?」
といわれれば
「大丈夫です」


………(以下なに言われても「大丈夫です」が続く。)


特別怒るほどでもないことなので、べつに何ともいいません。
ただ、その人のためには言ったほうがいいのかな?とは思いますが、
少なくとも

「もうちょっとやさしくお願いします…」

とかいえません。


まあつまり、何もいわないだけで、わりとシャンプーひとつとっても
思うことはあったりなかったり(どっちや)するわけです。




はてさて。今回はどうだったのかというと、、、


上手でした。


お湯加減も、力加減も、すすぎの調子も、
さらにはタオルドライ(タオルでふいてもらうこと)も上手かった。




さてここからです。
あなたは、シャンプー担当の新人君のシャンプーが上手だった場合、
「シャンプーよかったよ」
といえますか??




他に友人が一緒にいればいえるでしょう。
でも以外にこれっていえないもんだと思うのです。


街中で「ありがとう」なシーンに出くわしたり
「よかったよ」なシーンに出会っても、なかなかひとって
ひとりでその一言をいうことが難しかったりすると思います。


単純にてれくさかったり、逆に「なに突然?」って引かれたら…
と思うと、その一歩が踏み出せないことは往々にしてありますよね。




でも、わたしはそのとき、彼に
「シャンプー上手かったですよ」っていいたかった。
照れるしどーしよー…と思いつつ、どうしてもいいたい気持ちになっていました。


なぜそんな気持ちになったかというと、
単純に、わたしは彼の立場になったときに、
これいわれたら絶対にうれしいな、と思ったからです。


彼はおそらく先述のように、まだ、髪も切らせてもらえていない立場だと思います。
今お客さんに直接関わることが出来るのは、
シャンプーとドライヤーだけ。


どんなに一生懸命頑張っていても、まだまだ裏方だから、
お客さんから「いい子だね」とキャラをほめられることはあっても
技術的なことでほめられる機会ってまだないだろうなと察しました。


その、「ベースほめられることはあまりない」という世界に、
わたしは自分を重ねたのかもしれません。




わたしの仕事はお客様のサポート、お問合せ対応なので、
来る電話はご質問やご要望がほとんどです。


一般的に考えてみて、みんな『サポートセンター』に自分から電話をするようなときには
自分が知りたいことや、こうなったらいいなというご要望をたずねられることが多いと思います。


もちろん会話の中でお喜びの声も頂きますが、『満足度』に際限はないので
もっともっと、と改善点や向上の余地はいくらでもあるものなので、
テレフォンショッピングの「利用者の声」のように、
「これを使ってみて、本当によかったです〜」
というようなお喜びの声のみをお電話してくるようなことは、めったとありません。




それでも、月に一度発行している『かわら版』や、メールDM、日々のお電話などについて、
「いつもちゃんと読んでますよ」
「あれいつも書いてるんですか?すごいですね」
「全部のお客さんにひとりで電話してるの?やるねえ」
などのお声を頂く、ほんのささいな言葉が、
最高最強にうれしく、わたしを跳ね上がらせることをわたしは知っているのです。


つまり、今の彼に伝えることって、些細だけど明日頑張るのにすごく重要だ。
すくなくともわたしはそうだ。
と思ったのです。




現に彼のシャンプーはよかったし、
それを伝えれば、彼が喜んでくれることは明らかだという確信もある。
この事実を彼以外に伝えないでどうするんだ。


たった数分の出来事に、ここまで葛藤を繰り返したわたし。

言う決意をしたけれども、気さくな彼はドライヤーをかけながら
にこやかに話し続けている。




どうしよ…
(シャンプーよかったですよ・シャンプーよかったですよ・シャンプー…)
心の中で練習しつつ、タイミングを図るも、タイムアウト!!


結局、髪を切る担当の美容師さんにかわってしまいました…
タイミングが…ね…


と、次の瞬間、また通りすがった彼に、担当の美容師さんが声をかけたのを
きっかけに、


「シャンプー上手でしたよ!」


いえました。

案の上、彼は子供のように、
「え?ホントですか!?え〜(担当美容師)さん、ききました!?
 わあ〜、ありがとうございます!!」
と、大喜び。


担当の美容師さんも、
「よかったねえ〜、今日一番のご馳走じゃん!
 もう帰っていいくらいじゃない??」

と、一緒にうれしそうにしてくれました。


結局髪をきって、場所を立ち去るまで、彼は気にかけてくれつつ
本当にうれしそうな姿でした。




なんだか、ひとを喜ばせるのは照れくさいですが、
そういうポイントとか場面って、じつはすごく周りにありふれているよなあと思いました。


気づかないときもあるし、気づいてても知らんふりすることもある。
または、それを作為的に上手く利用して、
部下や上司を盛り上げることもあるのだと思います。


その意図はどうあれ、その相手の喜ぶ一言を発することによって、
ひとにきっかけを与えることや、大きくいえば人生を変えることもあると思う。


喜びは周りにも伝染するし、“良”のループを巻き起こす。


いいものはいい、と、素直に言うことと、
それを素直に受け取ることが、
喜びや明かるさとなって、家や企業や世の中を明るくしていくのではないか…


と、そんな上手くはゆきませんが、少なくともそう信じて
喜びを与えられたら素直に受け止め、
また、周りに喜びを与えられる人間になれればいいなと思った
最近のオシムなのでした…
きょうのわんこ風)。


おわり。